屋上のアトリエから

ハンドメイドアクセサリーatelier toit のアトリエ日記

パリに憧れた男たちの物語『たゆたえども沈まず』

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旅行記の途中ですが久々に読書で胸が熱くなったので記録したいと思います。


原田マハ『たゆたえども沈まず』

あらすじ

誰も知らない、ゴッホの真実。

天才画家フィンセント・ファン・ゴッホと、商才溢れる日本人画商・林忠正。
二人の出会いが、〈世界を変える一枚〉を生んだ。

1886年、栄華を極めたパリの美術界に、流暢なフランス語で浮世絵を売りさばく一人の日本人がいた。彼の名は、林忠正。その頃、売れない画家のフィンセント・ファン・ゴッホは、放浪の末、パリにいる画商の弟・テオの家に転がり込んでいた。兄の才能を信じ献身的に支え続けるテオ。そんな二人の前に忠正が現れ、大きく運命が動き出すーー。『楽園のカンヴァス』『暗幕のゲルニカ』の著者による
アート小説の最高傑作、誕生!(amazonより)


私は夫に「本を増やさないでくれ」と言われていて、そのため図書館で本を調達し
読書しています。
そのためどうしてもタイムラグができてしまう。
この本が刊行されたのは2017年10月。一年前です…。
予約してからずいぶん経って手元に届きました。


読み終わって思いました…もっと早く読んでおくべきだった!と。
それ位読み終わって感動で胸が熱くなったのです。


図書館で借りて読んで面白かったら(こっそり)買うようにしているのですが
購入決定です。

実はゴッホが苦手でした


ゴッホと聞いて一番に浮かぶイメージはなんでしょう?
「ひまわり」?「炎の画家」?「自殺」?


私は「耳を切った」です…。
「耳なし芳一」の芳一が耳を千切られる描写でギャン泣きした小さいころの私にとって
「ゴッホは耳を切った」という事実は恐怖でしかありませんでした。
包帯を巻いた自画像まであるし…!


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そして大人になりゴッホの絵を見ると、違う意味で怖さを感じました。
穏やかな気持ちで見ることができないんです。
たたきつけるように塗られた絵の具、迫りくるような激しさ。
明るいモチーフでもそこはかとなく感じる暗さ淋しさ。
心を病んで自殺したということが余計にそのあたりを印象付けていたのかもしれません。

変わるゴッホ像


少し前に穂積さんの漫画「さよならソルシエ」を読んで私の中のゴッホ像はずいぶん変わりました。
ただ、かなり創作の部分が強かった。


原田作品のゴッホは私の想像通りの激しさではありましたが純粋で優しく、
繊細な人に描かれていました。
宣教師になろうとして失敗し、絵を描く道を選ぶもまったく絵が売れない。
弟の仕送りを食いつぶし、酒におぼれ、それでも『絵を描きたい』という情熱が
彼を突き動かします。


そしてそんなゴッホを支える弟テオ。
圧倒的な才能への憧れ。兄の才能を信じてる、信じたいから支える。
でも家族だからこその辛さや憎しみにテオも苦しみ続けます。
テオもフィンセント同様に繊細なのです。
読んでいてこちらも辛くなるほどでした。


そして誰もが知っている「自殺」という結末に物語は進んでいく。
フィンセントの選択にやりきれない気持ちになりました…。


ところで、前述したようにゴッホ作品が少し苦手だった私は有名な数点しか知らず、
絵が登場するたびに検索しながら読んでいました。
物語の後半、弟テオに息子が生まれた際に登場したフィンセントが描いた絵を
見て驚きます。


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「花咲くアーモンドの木の枝」


自分と同じ「フィンセント」という名をつけられる甥の存在を知ったゴッホは
「言葉で言い表せないほど嬉しい」と母へ手紙を書いたそうです。
空へ伸びるアーモンドの木は新しい命を祝福する明るい優しさに満ちています。
私の中のゴッホ像はすっかり塗り替えられました…。


この絵が少し懐かしいような気がするのは、日本画の影響を受けているからだそうです。
そしてゴッホをそれほどまでに惹きつけた日本画をパリに広めた日本人も
この物語の大切な登場人物です。

林忠正とは?


私は子供の頃からモネが好きで、モネが影響を受けていたという理由で浮世絵を見るようになり、
そこから北斎が好きになりました。まさに逆輸入パターンです。


そしてモネが生きた時代のパリに『日本美術』を輸入した日本人、林忠正。


この物語では林の学生時代の後輩として架空の人物・重吉が登場し、
テオと友人になることで林は要所要所でゴッホ兄弟に示唆を与える役割となります。
実際の林がゴッホと交流があったかは不明だそうですが、wikiによると
印象派の画家と交流があり、マネと親しんだ唯一の日本人だったそうです。


林忠正 - Wikipedia


ただ、ゴッホ兄弟が話の主軸となっている為かわたし的にはもう少し詳しく
林忠正について知りたかったなぁというのが本音。


原田マハさんは

「林忠正の存在はとても大きいです。彼は明治期、パリ万博で日本を知ったフランスにわたり、日本美術を世界に売り込んだ人物。いわば日本で最初のグローバルビジネスマンと言えるかもしれませんね」

「当時のフランスにとって日本は開国間もない東洋の小さな島。そこから切り込んでいった林はまさに“侍ジャパン”でした。そんな彼が現代では忘れられた人になっているのが残念だという気持ちがありました」

とおっしゃっています。


まさに『林忠正についてもっと知りたい』と思わせられている私。
さすが原田マハさん…。

『たゆたえども沈まず』とは


タイトルのたゆたえども沈まず、はパリを表した言葉です。

パリは、いかなる苦境に追い込まれようと、たゆたいこそすれ、決して沈まない。


その言葉を踏まえて生まれるのがこちらの絵です。


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どうつながるのか?どんな意味が込められているのか?
ラストは涙なくしては読めません…。
フィクションだということを忘れそうになりました。


未読の方はぜひ読んでみてくださいませ。



こちらもおすすめ

『さよならソルシエ』穂積


ゴッホ兄弟といえばこの漫画。


たゆたえども…とまた違った切り口が面白い。
そしてテオがかっこよすぎます。

『ジヴェルニーの食卓』


私が原田マハのアート小説に触れるきっかけとなった作品にして
一番好きな作品です。
たゆたえども沈まずを読んだらこちらの『タンギー爺さん』をぜひ。
あぁ、でも「うつくしい墓」も「エトワール」も表題作もどれもおすすめなんです…!